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Short Story

This is CYUUSAN

完全無欠の史上最強のボディビルダー忠さんを主人公にしたフィクションショートストーリー集。


【生活・トレーニング編】

(第一話)「あ〜、よかった」@

子供のころ神戸に住んでいた時のこと。当時、家のまわりで見かける昆虫といえば、みのむし、毛虫、とんぼ、せみ、ちょうちょ、はえ、ゴキブリくらいのものだった。
ある日、道の真ん中で、なにかが動いているのを発見した。ウンコだ。ウンコが動いている。忠さんは不思議に思って顔を近ずけて観察した。と、その下から一匹の甲虫が顔を出した。「カブトムシだ!」「夜店で買ったら300円はする」「欲しい」・・・。
忠さんは獲ろうか、どうしようか考えた。「カブト欲しい。でもウンコの下から出てきた。きたない。でも幼虫は堆肥の中でそれを食べて大きくなると聞いたことがある。ウンコも堆肥も同じ肥やしだ。よし、獲ろう。」と思った瞬間、虫は再びウンコの下へ。「しまった!」
結局、諦めた。後になって、それがダイコクコガネ、いわゆるフンコロガシであることを知った。
カブトムシではなかったのだ。「あ〜、獲らなくてよかった。」

    一話目から汚い話ですみません。

(第二話)「あ〜、よかった」A

忠さんは、道を歩いていた時、道の真ん中に何かがあるのを見つけた。近寄って見てみると、どうもウンコらしい。さらに近づいた。「ウンコや。」
もっと、近づいて臭いをかいでみた。「やっぱりウンコや。」
さらに近づいて舐めてみた。「間違いない。これはウンコや。」
そして思った。 「ああ、踏まなくてよかった。」

※再び、すみません。

(第三話)「すさまじい・・・」 

忠さんが大阪にでてきて5年の歳月が流れた。
故郷から出てきた時には、いわゆる肥満児で100キロを超していた体重も上京以来続けていたボディビルのおかげで、逆三角形のマッチョな体に変身していた。
この忠さん、出身地の方言なのだろうか、プロテインを「プロンテ」「プロンテ」と言い、チーティングのことを「チンニング」と言っていた。
プリーチャーベンチカールを思いっきり「チンニング」を使ってやっていた。でも、おおきくなった。
ある夏、久しぶりに故郷に帰った忠さんは、風呂上がりに裸でいたところを、母親とバッタリ出くわした。
母親はすっかり変わり果てた我が息子を見て言った・・・。
「ち・ちゅう、お前、す・すさまじい体じゃのう!」
かあちゃんはボディビルダーの存在すら知らなかったのだ。

(第四話)「いやや〜」

トレーニング後、喉の渇きと疲れをいやそうと、ジュースの自販機に行った時の出来事。
母親と子供2人の親子連れが、ジュースを買おうとしていた。男の子はオレンジジュースを買った。続いて女の子が迷ったあげく、「リアルゴールド」のボタンを押した。母親がすかさず言った。「それ、おっさんやんか」
女の子は怒ったように「おっさんちゃうわ!アホ」と言い返した。
忠さんが続いてお金を入れてボタンを押した。「ガッチャ〜ン」大きな音と共に「リアルゴールド」が勢いよく落ちてきた。
「それ見てみい。おっさんやろ」母親が言った。
すかさず女の子が言った。「ほんまや、おっさんや! いやや〜〜〜!」
女の子は泣き出した。

(第五話)「な・なんで・・・」

ある夜、忠さんが駅の構内を通りがかった時、バス乗り場付近で2人の男が襟元を掴み合って、「こらー。俺をなめとったらあかんぞ。」「いてもたろかー!」と激しくやりあっていた。
遠巻きに人々が「かかわりたくない」「触らぬ神にたたりなし」という感じで様子をうかがっている。よくある光景だ。
と、その時、忠さんが2人の間に無言で割って入って、自慢の怪力で2人の男を分けようとした。
ところが、「なんやお前、関係ないやろ。」「誰じゃお前は!」 敵対していたはずの2人がいっせいに叫んだ。
「ドカ」「ボコ」「ドス」「グニュー」!!
2人の男が立ち去った後、忠さんは呆然として立ち尽くしていた。目は点になって、鼻血が一筋たら〜と流れた。
立ったまま腰を抜かしていた忠さんは呟いた。「な・なんで・・・」
そう、忠さんは勇気あるマッスルガイなのだ。

(第六話)「水溜まり」

忠さんは洗面器を片手に近くの銭湯にむかっていた。その夜は雨上がりであちこちに水溜まりができていた。「水溜まりに足つっこんだらえらいこっちゃ。」足元を注意しながら風呂への道を急いだ。
前方に大きな水溜まり発見。忠さんはそれを飛び越えようと日ごろスクワットで鍛えた自慢の脚で思いっきりジャンプした。・・・・・・・と、その瞬間。
「ばこ〜〜〜ん!」目から火が出て、激痛がでこに走った。
水溜まりの上にあった看板が大きく凹みゆれていた。
額から一筋の血が流れた。

(第七話)合コン「そ、そんな・・・」 

忠さんが花の大学生だったある春の日。場所は千里に近いある公園。今日は待ちに待った合同コンパの日。
こちらは8人、相手は某女子大学の8人。選り好みしなければ、1人は当たる計算だ。
この男子学生の8人は2つの派閥から成っていた。ひとつは忠さん派、もうひとつはキザ男速水のグループだった。この速水クン、男からみればキザでいやなヤローだが、こういうのに限ってやたら女にもてる。硬派忠さんにとっては最もいやなタイプだった。それに加えて、共に寮生活をしている仲間ではあるのだが、日ごろから女の子からかかってくる速水くんへの電話の取り次ぎばかりをやらされている忠さんにとってはにっくきライバルだったのだ。(少なくとも忠さんはそう思っていた。)
「ボートに乗りたいね」女の子たちが集まって話しているのを偶然に耳にした忠さんは、今こそ日頃ベントオーバーローイングで鍛えた腕の見せ所、これなら速水に勝てると張り切った。
ランチタイムが終わり待ちに待ったフリータイムだ。
「ボートに乗りたい人、こっちにあ〜つまれ。」忠さんは片手を挙げて声だかに叫んだ。女の子たちが振り向いた。「しめた!」と思ったその直後。
「喫茶店組こっちだよ!」と速水クンが手を挙げた。
女の子たちは、いっせいに「は〜い」と言って速水クンに群がった。
片手を挙げたままの忠さんだけが、その場に取り残された。
そう、忠さんの仲間までが、速水クンのおこぼれにあずかろうと行ってしまったのだ。
「そ、そんな・・・」忠さんの目は点になっていた。涙が出てきた。

(第八話)「ダブルデート」

連れのデートに同行することになった忠さん。彼女が友達を連れてくるから、その子の面倒を見てやってほしいというのだ。つまりダブルデートだ。
京都の四条河原町の待ち合わせの場所に行くと、間もなく向こうから2人ずれの女の子がやってきた。
ひとりはフツーの子、もうひとりはすごい美人だった。連れはあいさつもそこそこに美人の手をとって歩き始めた。忠さんもフツーの子と後に続いた。哲学の道、映画、喫茶店・・・デートは無事終わった。でもこころなしかフツーの子は怒っているようだった、涙ぐんでるようにも見えた。
女の子と別れての帰り道、連れが言った。「忠、お前あの子とつきあえや。面倒みたれや。」
「えっ、どういうこと?」
忠さんは、そのフツーの子が連れの彼女だったことをその時初めて知った。

(第九話)「トイレ」

忠さんの自慢は怪力である。
ジムにはトイレがひとつしかない。つまり、男女別に分かれていなかったのだ。そこで悲劇は起こった。
忠さんはトレーニング前に、トイレに行く習慣があった。その日もいつも通りトレーニングウエアに着替えるとトイレに向かった。
忠さんがトイレに入っていった直後のこと、「キャーツ!!」という女性の叫び声がジムにこだました。無残にトイレのカギは吹っ飛んでいた。忠さんの目は点になっていた。何の悪気もない。ただ、忠さんの「怪力」と「ノックをしないクセ」がこの悲劇を呼んだのだ。
カギはすぐに修理されたものの、この悲劇はその後二度程繰り返された。
被害者約3名。

(第十話)「金属疲労」

忠さんの自慢は怪力である。
大阪広しと言えども、80キロのバーベルでチーティングスコットカール?が出来るのは忠さんくらいのものであろう。このジムのスコットベンチは床に固定されていて、ポールの上にアームボードがついているタイプである。
この日も忠さんは、いつもの通り5時30分キッチリにジムに現われトレーニングを始めた。
チーティングベンチプレス、チーティングバックプレス、チーティングトライセップス、チーティングカール。忠さんはチーティングが好きである。チーティングに「ズルをする」という意味があるのを、忠さんは知らない。
そして、チーティングのことを「チンニング」と言う。ではチンニングは?やはりチンニングである。
トレーニング開始後30分ほどたった頃、突然ジムの奥から「グワッシャ〜ン!」というけたたましい音が響いてきた。
会長が駆けつけると、スコットベンチのポールは忠さんのチーティングスコットカールによる金属疲労に耐えられず、無残に根元から折れて倒れていた。
バーベルを握ったままの忠さんも気を失って倒れていた。
会長は叫んだ。「えらいこっちゃ。はよ、修理屋呼べ!!」

(第十一話)「バックドロップ」

忠さんは、高強度トレーニングが好きだ。腹筋は自慢のパーツで、より強い刺激を追求していた。
この日、忠さんは何を思ったか、ふいに腹筋ボードをほぼ垂直に近い角度に壁に立てかけ、よじ登るようにして足をフックに通した。「ニッ」と笑った忠さんは、腹筋を鍛えるべく上体を降ろした。
次の瞬間、賢明な読者ならずとも誰でも想像がつくことだが・・・
「グワッシャ〜ン」腹筋ボードは後ろに倒れ、忠さんは後頭部を痛打して気を失った。まるでプロレスの必殺技バックドロップだ。
会長は思わず忠さんに駆け寄り、スリーカウントを数えた。

(第十二話)「サプリメント」

サプリメント好きの忠さんは特にプロテインに関してはうるさい。
「お前、プロンテ飲んどんか?」 忠さんに聞かれた入会間もないメンバーは忠さんの体に怯えながら「プ・プロンテ?それ何ですか?」…この新メンバーもかなりのトレーニングおたくで、一応サプリメントのことは知っていたが、さすがに「プロンテ」はわからなかったらしい。
「プロテイン」のことなのである。忠さんは何故かプロテインのことをプロンテと言う。
巷のメーカーでは、このプロテインはパウダー状で溶けやすい、吸収が早いなどとうたっているが、忠さんには無意味だ。
「昔のプロンテはパサパサして食べ応えがあったが、最近のはサラサラして食べにくい。すぐ溶けるから、腹もちも悪い。」などと言っている。
そう忠さんは、プロテインは水やミルクに溶かして飲むのではなく、スプーンで食べるのだ。それも一度にコップ1杯は食べる。
でも、コップ1杯のプロテインパウダーの中に何グラムの蛋白質が含まれているか忠さんは知らない。

(第十三話)「初体験」

忠さんの初体験は遅かった。なんせ、硬派中の硬派。かったい、かったい。20才を過ぎるまで「彼女いない暦20数年」キスどころか女の子の手を握ったことすらなかったのだ。
大学4年の夏、忠さんはコンパの帰りに悪友に誘われて始めてソープの門をくぐった。
ドキドキどころか、心臓がバッコン、バッコンと鳴っていた。
やがて、ソープ嬢が背中を向けて、ブラを外しにかかった時、それを見ていた忠さんのコーフンは頂点に達した。そして、果てた。
おねえさんは思った。「こんなおっさんばっかりやったら楽やのにな・・・」
そして言った。
「はい!!3万円!!」

(第十四話)「忠犬ハチ公」

忠さんは近所の銭湯にかれこれ20数年間、通い続けている。アパートにフロがないわけではない。さかのぼること20数年、そのころ忠さんにも嫁ハンがいた。
一見何処にでもいる仲のよい夫婦に見えた。ある夜嫁ハンは「おふろに行って来る。」と言って家をでたきり、帰ってこなかった。忠さんは一晩中探してあるいたが見つからなかった。そして20年経った今も帰ってきていない。
その日以来、忠さんは休みの日以外は1日も欠かさず銭湯に通い続けている。ヨメを探して20年・・・。
まるでマルコか忠犬ハチ公だ。
夜店ですくった3匹の金魚が忠さんの今の家族だ。

(第十五話)「ちっちゃい器」

忠さんとて仕事もする。仕事もせずに筋トレばっかりしているからヨメが逃げたわけではない。
営業マンをしていた時のこと、ある日後輩のFを車で待たせて得意先から出てきたら、何やらもめている様子。Fに事情を聞いてみると、車を止めて待っていたらおっさんが出てきて「車を動かせ」と言うので、おっさんの指示通り車をバックしたら、おっさんが車を発進させるのとバックさせるタイミングがずれてバンパーを少しこっすたらしい。
おっさんは、「傷がついた。高いんやでこのバンパー。5万はするぞ。弁償せー。」とわめき始めた。とりあえず間に入ってなだめて、そのおっさんの差し出した名刺を見ると、なんとホン○自動車販売の専務さん。
傷といえば、光にすかして見ないと見えないようなスリ傷。「ちゃんと、バンパーさらにせえよ。」とえらそうに毒づく専務に忠さんは言った。
「ちっちゃいキンタマ。」
専務はあわてて股ぐらを押さえた。
「でっかい看板」に「ちっちゃい器」。開いた口がふさがらない忠さんであった。

(第十六話)「世の中すてたもんやおまへんで」

忠さんはこの日も後輩Wを連れて車で営業の仕事をしていた。
助手席で舟をこいでいた忠さんは、突然「ボゴ・ガリ」という音で目を覚ました。Wがよく確認をせずに進路変更をしたため、右後方から来た車に接触したらしい。
「やばい!」と思ったが案の定、接触した黒のクラウンが前に出て停止した。Wもびびってその後ろに停止した。中から黒いスーツにサングラスの男が降りてきた。忠さんもちょっとびびった。
「どこ見て運転しとんや!!」「バンパーだけやったら許したろ思うたけど、ドアもいっとんのう。」男と目が合った。忠さんはちょっとちびった。
なるほど、はっきりとスジがバンパーから後部ドア、前部ドアの中程まではしっている。と、突然、後部ドアが開き親分らしき男が降り立ち、後ろから忠さんの肩を「ポン」と叩いた。忠さんは完全にちびって叫んだ。「す・すいまそん!しょんべんばちびりますたい!」
男はニヤッを笑い。「誰にもあることや。これから気いつけや。」と言い残すと車に乗り込んで車はゆっくりと発進し走り去った。
とっても恐かった。でも忠さんは思った。
「まだまだ、世の中すてたもんやおまへんで。どこかの専務とえらい違いや。」パンツは気持ち悪かったが、心はさわやかだった。

(第十七話)「年の瀬」(12.30)

20世紀ももうすぐ終わりを告げようとしている。
忠さんごこの世に生を受けて今日まで色々なことがあった。家族のこと、コンテストのこと、友達のこと、ヨメとの出会いと別れ・・・様々なことが走馬灯のように忠さんの脳裏を駆け巡った。
今世紀最後のクリスマスもやはりヤローと2人でジムで過ごした。ヤローと別れたあと、屋台で一杯やって帰った。街はジングルベルが流れ恋人たちや家族づれで賑わっていた。さびしかった。
部屋の窓を開けて空を見上げると雪が舞っていた。キレイ・・と思った。今年もヨメは銭湯から帰ってこなかった。涙が出てきた。3匹の金魚だけが忠さんを見守っていた。
ノウテンキな忠さんとて、時にはこうして感傷的になることもあるのだ。
忠さんは容赦無く寒気の吹き込む窓を閉めて言った。
「さあ、ジム行こ!!」
今年も忠さんは除夜の鐘にあわせて108回のベンチプレスに挑戦しながら新年を迎える。
忠さんは2001年が「愛とロマン」にあふれた素晴らしい年になると信じて疑わない。

(第十八話)「忘れとった・・・」

忠さんはコンテストで知り合ったミス・フィットネスのYUKIさんに一目ぼれしてしまった。こっちとら予選落ち、相手はミス・フィットネス。
忠さんは、自分も恥ずかしくない結果を残そうとトレーニングに励んだ。プロポーズしようにも予選落ちではバランスがとれないと思ったのだ。
今の自分には高嶺の花。チーティングカール、チーティングプレス、チーティングベンチプレスと猛トレーニングに励んだ。
サプリメントも摂った。プロンテに加えてマルチビタミン、アミノ酸、グルタミン、アニマリン、ナフタリン、クレアチン、アカチン、ヨーチン、フルチン・・・体に良いと聞いたものは何でも飲んだ。
その甲斐あって、体はグングン大きくなった。何が効いたのか忠さんにもわからない。
ダイエットにも耐えた。ササミと野菜とビタミン剤を飽きるほど摂った。カルニチン、BCAAも摂った。サプリメントをこんなに摂ったのは、初めてだ。ひもじい時はトマトとダイエットコークで腹を膨らませた。
コンテスト2日前、カーボアップとばかりにバナナを50本食べた。前日、バナナを100本食べた。むろん忠さんはカーボアップなどという言葉さえ知らない。忠さんのビルダーとしての本能がそうさせるのだ。
当日朝、ボリューム感が出てきて、おまけにバリバリだーっ!!よせばいいのに、すぐ調子に乗るのが忠さんの良いところ? 駄目押しとばかりに150本のバナナを食べた。途中、喉が詰まりそうになったので、ちょっと古いが冷蔵庫に残っていた牛乳を1リットルばかり飲んだ。
ちょっとすっぱかったが、気にしない。今まで期限切れの牛乳を何度も飲んだがあたったことがないのだ。
それに牛乳の腐ったのがヨーグルトだと信じて疑わない。
これで完璧や!! 心底そう思った。
忠さんの思惑通り、会場は忠さんの体にどよめいた。余裕の決勝進出だ。誰もが忠さんの優勝を信じて疑わなかった。
しかし、ついに忠さんは決勝の幕があいたステージにその勇姿をあらわすことはなかった。
その頃、忠さんは会場のトイレの一番奥の個室で冷や汗を流していた。不覚にもこの大切な日に生まれて初めてあたってしまったのだ。
「無念の決勝欠場!」
それとともに忠さんの1年越しの恋も告白することなく終わった。
トイレの中で忠さんは思った。
「ヨ・嫁がおるの忘れとった・・・・」
(注)ナフタリン、アカチン、ヨーチン、フルチンはサプリメントではありません。念の為・・・。

(第十九話)「忠さんVSチューさん」

忠さんがいつも通りトレーニングを終えて帰ってきてアパートの玄関のドアを開けたとき、(このアパートは玄関のドアを開けると半畳ほどの土間があり、すぐ2階への階段が続く構造になっていた。)正面の階段のちょうど目の高さあたりに1匹のネズミが居るのに気がついた。
一瞬目が合い、「なんやねん!」と思った瞬間、ネズミも「なんやねん!」とばかりに、いっきに階段を駆け降り、忠さんのバギーパンツのすそから中に入り込み、脚を駆け登った。
さすがに男の危機を感じた忠さんは、モモの付け根あたりでネズミを食い止め、思いっきり掴んだ。「チュ〜〜!」危機一髪!!掴んだまま、玄関先でパンツを脱ぎごみ箱に捨てた。脚を見るとクッキリとネズミが駆け登った足跡がついていた。
忠さんは「男の大事なもの」を死守した安堵感に包まれていた。
そのネズミの生死は確認されていない。
これホントにあった話。(By N)

(第二十話)「まあた、やられた!」

例年通りコンテストに向けて減量に入る4月。忠さんはジムで出会った黒のトレーニングウエアに黒のキャップと言ういかにも怪しげないでたちの男に「ええ、減量用のサプリメントがあるんやけど買わへんか?安うしとくでえ。」と勧められた。
「へえ、そんなもんあんの? ひょっとしてまたFATエレキバン?・・・」 去年の今ごろ白のウエアに白のキャップ姿の男に勧められたのである。脂肪を落としたい部分に貼るだけでたちどころに脂肪が落ちるという説明をすっかり信用して5万円で買ってしまったのだ。減量に苦しんでいた忠さんにとって彼は白衣の天使に見えた。効果??貼ったところにあせもができ、皮膚がかぶれただけだった。
「ちゃう、ちゃうええ話や。そんなまがいもんと一緒にせんといて。これは中国古来の漢方薬と西洋医学の集大成ともいえる代物や。あのシュワちゃんも使うとるんやで。買って後悔させまへん!」というわけで、またまた4万円で買ってしまった。
早速、その日から使い始めた忠さん、翌日からひどい下痢に見舞われた。それでも人を疑うことを知らない忠さん、そのまま、通常の倍位の量をのみ続け、すっかり痩せてしまった。やっと「へんやな?」と気ずき、知り合いの医者に見てもらったら、それはただの下剤だった。
「ま・また、やられた!」
忠さんは人を疑うことを知らない。よく言えば純真、悪くいえばアホである。
さて来年は何色のウエアを来た男に騙されるのやら・・・。
もうすぐ3月、早い人ではコンテストを目指してそろそろ減量などと考えていろ方もおられると思います。順調にバルクアップはできましたか?
忠さんからのアドバイスを・・・・
@減量は余裕をもって、時間をかけてやりましょう。
A減量はコンテストの1ヶ月前に完了、あとは微調整、コンディショニングの期間と考え、それから逆算して始めましょう。
B減量幅は2週間に1キロ(1週間に0.5キロ)以内にしましょう。これ以上早いと筋量を犠牲にする恐れがあります。
C使用重量の下降=筋量の減少の信号と考えて、こんな時は炭水化物を少しづつ増やしてみましょう。
D減量が順調なら1週間に1度は好きなものを自由に食べる日をもうけましょう。ストレス解消、カロリー不足気味の体を癒す効果があります。
最後に商魂逞しい人の販売する怪しげなサプリメントに注意しましょう。僕みたいになるかもしれません。
ビルダー以外の真夏のビーチを目指している人、少し太目のおねえさんもそろそろ始動してください。
では、健闘を祈ります!!(忠さん)

(第二十一話)「ベストシェイプキーパー」

太った人を見かけると「なぜあんなになるまで放っておいたんだろう?」と忠さんは思ってしまう。と同時に最近自分自身歳のせいか太り気味なのを自覚している。立派だ。
始末に悪いのは何事においても自覚症状のない人だ。能力も無いのに「出来る」と勘違いしている人。信用のかけらも無いのに「自分は部下の信望が厚い」と思っている上司などだ。痩せているのに太っていると思っている娘も困り者だが、太っているのに痩せていると思っている人(食欲に勝てないだけで、そんな人は多分いないと思うが)は始末に悪い。
そこで忠さんの発明品「ベストシェイプキーパー」の登場だ。自分のベストシェイプを形どった型というかフレームだ。特注でボーナスをつぎ込んで樹脂成型屋に作ってもらった。高かった。
忠さんは毎朝そのフレームに入って体型を確認していた。キツイと飯をぬいた。ゆるいとチューハイを飲んだ。なんと健康的と思っていた。
その年のゴールデンウイーク、久しぶりの大型連休だ。だが、ジムは休みだし嫁も数年前、銭湯に行くといって洗面器を持って出かけたまままだ帰ってこない。
ここのところ仕事で睡眠時間が少なかったので、暇にまかせて思い切って寝て過ごすことに決めた。でも忠さんのビルダー魂は死んでいない。体型をキープするため型の中で寝ることにした。
よっぽど疲れていたのだろう。忠さんは3日3晩眠り続けた。3日後、忠さんは目を覚まし、型から出ようとしたが出られない。やばい、太ってしまったのだ。
これ本当のようなウソの話。
これを考えている私の横では丸々と太った兄ちゃんがアンパンをしっかりと握って船を漕いでいた。

(第二十二話)「トレーニング三昧」

トレーニング三昧。仕事なんかせずに1日中トレーニングして、プロテイン飲んで、ゆっくり本でも読みながらサンタンをし、そして側には美しい嫁がいる(ここが忠さんの人間性のいいところ?)。ストレスなんて全くない。
そんな生活をすれば、体もスクスクとデカク育つだろう。忠さんならずとも、熱心なトレーニーなら誰もが一度はそう考えたことがあるはずだ。
でも、たいがいのトレーニーは「そんなの無理、ムリ。最近は忙しくて1日30分のトレ時間だってとれないよ。」などと言いながら、酒を飲んで、くだをまき、喫茶店でタバコを吸いながら仕事をさぼっている。
忠さんは、めったに酒は飲まない。女におぼれることもない。たまに風呂で溺れることはある。タバコは決して吸わない。理由は煙りじゃ腹が膨れなうからだ。「時間がない」決してそんな言い訳はしない。「なぜ、1日30分の時間がとれないのか?」そう思っている。
頭を使えば、やる気があれば、トレーニング三昧も夢じゃない!!で、早速やったみた。思いたったら即実行。忠さんらしい。
朝起きたら、歯を磨きながらワンレグカーフ、通勤電車の中では吊革を使ってのアイソメトリックカール、普通アイソメトリックスは全力で10数秒だが忠さんは片道1時間のフルタイムだ。すいてたら吊革でのチンニング、仕事中はいつも腰をうかしたままでのデスクワーク、車に乗ればハンドルを使ってのアイソメトリックベンチ、一度ハンドルローイングをしてハンドルを引き抜き、田んぼに落ちたことがあるので今はしない。帰りには、近くの公園の低鉄棒でスクワット、一日の締めくくりはふとんの中で寝るまで腕立て伏せだ。
まさにトレーニング三昧。忠さんは実に幸せな男だ。
忠さんはデートコースにも必ずジムトレをいれる。唯一、それでも逃げなかった女(ひと)・・・。それが忠さんの嫁だ。

(第二十三話)「受けてるぞ!」

ある年のコンテスト。
ある選手。「あ〜っ!えらいこっちゃ。ビルパンに穴あいとる。そや、確かホールの特売場でビルパン売っとったな。」・・・てな理由で穴あきパンツを放り投げてビルパンを買いに走った。放り投げられたパンツは運悪く、忠さんの開けっ放しのバックの中へホールインワン!!。
トイレから戻った忠さんはそんなこととはつゆ知らずビルパンを履き替えにかかった。忠さんは、長年の習慣で予選と決勝では違う色のパンツで出場していたのだ。
加えて運悪く、穴パンは忠さんのビルパンと全く同じ色、サイズだった。
いよいよ、決勝。
「ゼッケン30番、NBC所属、忠さん!!」忠さんはテーマ曲、阿波踊りのリズムにのってステージに登場し、得意のフリーポーズが始まった。
「えらいやっちゃ、えらいやっちゃヨイヨイヨイヨイ・・・」最高の乗りだ。
忠さんが後ろを向いて得意のバックポーズを取り始めた時、会場にどよめきとも思える声があがった。ちょうどパンツのド真ん中にこぶし大の穴が開いていた。
やんやの喝采!忠さんは穴のことに全く気づいていない。
「う・受けてるぞ!!」と思った忠さんは調子にのって得意のバックポーズをとり続けた。そしてダメを押すように腰を深く下ろしてのバックダブルバイセップス。その瞬間こぶし大の穴はさらに広がりポロリと飛び出した。会場、大爆笑。事実を知らない忠さんは「受けてるぞ!」・・・と思った瞬間、審査員が立ち上がって叫んだ。「た・退場させ〜えい!!」
当日は運悪くHHKテレビが取材にきて全国に生中継されていた。
5年間の出場停止・・・。「そ・そんな・・・。」忠さんは本当についていない男だ。

(第二十四話)「もてる男はつらい」

忠さんはもてる男である。忠さんは60近いおばさんに恋こがれられていた。一方心なしかキュートだが毛深いミスター・レディのミミーちゃんからも恋を打ち明けられていた。
ある日、忠さんは二人に迫られた。
「忠さん、いつまで私らを待たせるつもり!!今、ここでどっちを取るか決めてちょーだい!!」「ねえ、どっち!?」
忠さんは、しばらくの沈黙のあと二人に言った。
「じゃ、ちみたちは「カレー味のうんこ」と「うんこ味のカレー」のどっちかを取れと言われたらどーすんの?」
もてる男はつらい!!

(第二十五話)「決意」

底なしの平成不況の中、忠さんはトレーニングに励んでいる。一時は会社をいつクビになるともわからないと言う不安から「トレーニングどころじゃない。」とトレーニングに身がはいらない時期もあったが、やっぱ、トレーニングが好き、離れられないのだ。
当時、忠さんが、ジムの会長に「俺も年やし、会社もいつまでもつか、ヨメも探さなあかんし、トレーニングどころやおまへん。」と言うと、「アホ、そら言い訳や。男やったら仕事はしっかりせい。トレーニングも命かけい。そんなんやから、何をやっても中途半端でコンテストも優勝できひん。ヨメにも逃げられるんや。玉子食うんやったら1パック食え!鳥食うんやったら丸ごと食え!プロテイン飲むんやったらスプーンなんか言うとったら大きなれへん。ドンブリや。プロテイン代?出世払いや。」
そう、ビルダーというからには、普通の人と同じではダメなのだ。すさまじい体が必要なのだ。それには人と同じことをしてては絶対になれない。
会長の熱い励ましに涙が出てきた。そして、決意を新たにする忠さんであった。
その晩、偶然ショットバーで知り合ったナイスバデイの女と意気投合した忠さん。男以外と話すのは何年ぶりか。すっかりコーフンして漏らしそうだった。店をはしごしながら女に会長の話を言うと「アホクサ。忠さん、そんなんしたら体壊すだけよ。もっと、自分を大事にして。」と言われた。
「そやろ!わしもそう思うとったんや。ガハハ!!」豪快な忠さんであった。
久しぶりに酔った忠さん。気がつくと公園のベンチでひとり寝ていた。
ポケットを探るとサイフがなかった。
忠さんが久しぶりに酔ったのは、酒では無く、またしても若い女の色香であった。
このぶんでは、当分優勝なんてできそうにない。


(第二十六話)「電子レンジ」

忠さんの勤務先では毎年秋に成人病検診が行なわれる。「たまには検査にひっかかってしばらく入院でもしてゆっくりしたい。」と期待するのだが、トレーニングの成果か毎年健康体と言われ、たまには病院で美人看護婦に囲まれてゆっくりと静養という忠さんの夢は今だかなえられていない。
成人病検診といえば、毎年、胃のレントゲンで飲まされるバリュームが悩みの種だ。いや、味がどうこうと言うのではない。味と飲みにくさでは昔の解けにくい超まずいプロテインで鍛えられている忠さんにとっては「美味」なのだ!!が、しかし、そのあとがいけない。いくら下剤を飲んでも胃腸が丈夫な忠さんには効かない。その結果は言うまでもなく下腹がはりバリューム排泄との闘いとなるのだ。
それにもうひとつ。忠さんは柄にも無く緊張するタイプなのだ。検査となると便が毎年出ない。そこで考え抜いたあげく思いついた名案がこれだ。
検査の1週間前、忠さんは「大」を予め採取しておいたのだ!!ヒントは予め採取しておいた血液を冷凍保存しておき、試合前に体内に戻し赤血球の数を増やし競技能力を高めるという血液ドーピングである。
検査当日、寝坊した忠さんは急いで会社に向かったが時間が無い。会社の冷凍庫から取り出した冷凍便を取り出して電子レンジに放り込んだ!!「チ〜ン!!」
その結末は・・・。賢明な皆さんならもうわかるだろう!!
その日以来、誰も会社の電子レンジを使っていない。

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